飛ぶ鳥の献立

かく在りき 書くに溺れし 持て余す惰性と付き合うため

スキですイッチ(仮) 初稿

登場人物

 

・太郎

・一郎

・ハンサム

・ナレーター

 

 

   教室。太郎が何かひそひそやっている。

 

太郎 「あの、好きです。付き合ってください。」普通すぎるか。「初めて見たときから好きでした。付き合ってください。」ストーカーっぽいか。「今日は月が綺麗だね。好き。」ナルシストっぽいか。「俺たち友達やめない?付き合ってくれ。」なんかなあ。

 

   太郎、一郎が入口で見ていることに気づく。

 

太郎 おっと!

 

   一郎、教室に入ってくる。

 

一郎 どうしたんだい、太郎君。

太郎 ごめんね一郎君。変なとこ見られちゃったね。

一郎 もしかして、告白の練習かい?

太郎 ふふふふ、そう。

一郎 そうか。じゃあ好きな人ができたんだ。

太郎 いや、全然。

一郎 ん?

太郎 できてないんだー。

一郎 それじゃあ、なぜ告白の練習を?

太郎 いや、もしいつか僕にも好きな人が出来たとき、練習しておかないと大変だなって思って。

一郎 そうか。

太郎 うん。

一郎 それは、ナイスアイディアだね。

太郎 え?

一郎 ナイスアイディアだね。

太郎 ああ、ありがとう。

一郎 礼には及ばないさ。

太郎 やっぱ一郎君はすごいね、何となく。

一郎 そうだろ、はは。ところで、太郎君。誰かを好きになったこと、ある?

太郎 どうして?

一郎 告白の練習をしているということは、もしかして告白したことがないんじゃないのかな、って。

太郎 ああ、確かに。

一郎 それに君は見た感じ、告白されるような容貌でもない。

太郎 確かに。

一郎 この二点から推理した結果、君は誰かを好きになったことが無いんじゃないか、ってね。

太郎 なるほどー。何でもお見通しだね。

一郎 実に面白い(福山雅治)。

太郎 あ、でも無い訳じゃないよ、好きになったこと。

一郎 なんだ、あるのか。

太郎 でも、告白するほど好きになったことは、ない。

一郎 ん?

太郎 いやーどうしてかなあ。よく分からないんだけど。

一郎 さっぱり分からない(福山雅治)。

太郎 ああ、まあなんていうか、「良いなあ」って思うことはあるんだけど、「告白してもなあ」とも思ったりして。

一郎 太郎君!

太郎 なに?

一郎 君はキスをしたことがあるかい?

太郎 いきなりだね。

一郎 キッス。

太郎 いや、あるわけないよ、僕なんて。

一郎 やっぱり。

太郎 そ、そういう一郎君はあるの、キスしたこと?

一郎 それは、あるよ。してるさ。

太郎 やっぱり。やっぱりみんなもう済ませてるよね。

一郎 まあ、人によるだろうがねぇ。

 

   太郎、一郎をまじまじと見る。一郎、目を逸らす。

 

太郎 やっぱすごいや、一郎君は。なんか、なんでも知ってるって感じ。

一郎 まあ、大抵のことは知っているよ。君とは違ってね。

太郎 すごいや。

一郎 ゴホン。あの、太郎君。さっき、誰も好きになったことがないって、そう言ったよね。

太郎 言ったね。

一郎 それは、絶対におかしい。

太郎 え、どうして?

一郎 言うならば、インポッシブル。

太郎 え、どうして。

一郎 ドントアリエル。

太郎 ・・・え、どうして。

一郎 よろしい。ならば聞こうではないか。

 

   スクリーンが出てくる。

 

一郎 まずは、太郎君。新垣結衣は好きか。

 

   スクリーンに「逃げるは恥だが役に立つ」の文字。

 

太郎 まあ、好きだね。

一郎 では、キスしたいと思うか。

太郎 ま、まあ?

一郎 そうか。

 

   スクリーンにハートが浮かぶ。

 

一郎 では次に。太郎君、二階堂ふみは好きか。

 

   スクリーンに「ヒミズ」の文字。

 

太郎 まあ。

一郎 キスしたいか。

太郎 うーん。

一郎 そうか。

 

   スクリーンに「微妙」の文字。

 

太郎 では次に。綾瀬はるかは好きか。

 

   スクリーンに「おっぱいバレー」の文字。

 

太郎 良い子だとは思うんだけど。

一郎 そうか。

 

   スクリーンに「対象外」の文字。

 

太郎 あの一郎君。さっきからこれは何をやってるの?

一郎 ああ、恋しているかどうかを判別しているんだ。

太郎 え?

一郎 自分が恋しているかどうか、それを判断するのはキスをしたいかどうかだ。

太郎 あ、そういうことですか。

一郎 そう。簡単な話だろう。

太郎 綾瀬はるかはどうしてダメなんですか。

一郎 良い人は、どこまでいっても良い人止まりだ。

 

   スクリーンに「良い人ストップ」の文字。

 

太郎 はあ。

一郎 では次だ。太郎君、マギーはどうだ。

 

   スクリーンに「バズリズム」の文字。

 

太郎 この人は、不倫がどうとか言ってたからな・・・。

一郎 なるほど。こういうことだな。

 

   スクリーンに「ゲスストップ」の文字。

 

太郎 でもさ。今のはみんな芸能人ばっかりじゃないか。僕がどうしようたって無理な話だろう。

一郎 そんなことはない。

太郎 でも。

一郎 いいかい、太郎君。あきらめたら、そこで試合終了なんだよ。

太郎 そ、そっか。

一郎 そしてこれは、身近な人間にも当てはまる。どうだい、街を歩いていて、目の前を通り過ぎる人に対

   して、「キス、したい」と思った事はないかい。

太郎 まあ、あるかも。

一郎 授業中、立って教科書を音読している、隣のあの子。それを見て、「ああ、キス、したい」と思った事はないかい。

太郎 あるかもね。

一郎 映画館、隣でラブストーリーを食い入るように見ている女の子。それを見て、「ああ、キッス、したいな」と思った事はないかい。

太郎 それはどうだろう。

一郎 シチュエーションはどうでもいい。つまり、そうやって「キスしたい」と思う人こそ、君が恋をしている人なんだよ。

太郎 で、でも、キスしたいかどうかだけで判断するのは良くないんじゃないかな。

一郎 どうして。

太郎 だって、ほら、お互いの趣味が合う合わないとか、付き合ってみたらどうも反りが合わないとか、そういう話よく聞くじゃない。

一郎 はあ。太郎君。それは付き合ってみてから考えればいいことじゃないか。

太郎 でも。

一郎 いいかい。太郎君。君が言っているのは、つまりは愛だ。それは恋して付き合ってから勝手に生まれるもんだ。

太郎 そ、そういうものかなあ。

一郎 そういうものさ、恋というのは。

太郎 でも、それって相手の人に悪くないかな。

一郎 君はどこまでも優しい人だなあ。いいんだよ、もっと自己中心的で。わがままで。周りのみんなもそうやってるんだ。君だけ優しい人でいる必要なんでない。

太郎 うん。

一郎 人生の主役は君自身だ、太郎君。君の人生がつまらないと思っているのなら、それは君自身がつまらないヤツだからだ。もっと楽しくいこうじゃないか。

太郎 別につまらないとまで言ってないけどね。

一郎 そうか。まあいい。そして、君が「ああ、この人とキスしたい」と思った時、すぐにその人に声をかけるんだ。なんなら告白してしまってもいい。

太郎 そんなの失敗するに決まってるじゃないか。

一郎 失敗してもいいんだよ。相手なんて星の数ほどいるんだ。ダメで元々。ダメだったらまた他の人に声をかければいいんだ。

太郎 な、なるほど。何となく理屈は分かった気がするよ。

一郎 だろう。失敗を恐れるな。ドントビーアフレイド!

太郎 ドントビーアフレイド。

一郎 ドントビーアフレイド!

太郎 ドントビーアフレイド!

一郎 そうだ!

太郎 そっか。何か途中から違うことを学んだ気がするけど、そうだね。勇気を持つことが大事なんだね。

一郎 やっと分かってくれたか。

太郎 やっぱすごいや、一郎君は。キス、済ませた人は違うね。

 

   一郎、目を逸らす。

 

太郎 なんか色々吹っ切れたよ。ありがとう、一郎君。

一郎 れ、礼には及ばないよ、太郎君。

太郎 じゃあ、一郎君。

一郎 なんだい。

 

   太郎、手を差し出す。

 

一郎 あ、ああ。

 

   一郎、握手をしようとする。

 

太郎 一郎君、僕たち友達やめない?付き合ってくれ。

一郎 え?

   

太郎、手を差し出したまま、目をつぶり、唇をすぼめてキスを待つ。

 

一郎 あ、ああ。そういうことだったのね。そっか。なるほどなるほど。ま、まあ、責任は僕にあるよね。

 

   太郎、目を開ける。

 

太郎 まだ?

一郎 ああ、ちょっと待ってくれ。

 

   一郎、目を逸らす。

 

一郎 まさか初めてがこんな風になるとは。しょうがない、うん。

 

   一郎、意を決して太郎と握手をし、キスしようとする。その時、廊下をハンサムが通り過ぎる。

 

太郎 待って。待って。好きです。付き合ってください!

 

   太郎、ハンサムを追いかけて教室を出ていく。

 

一郎 あれ、勝手に告白されて、勝手にフラれた。くっそお、僕だって恋、するぞー!

 

   一郎、客一人ひとりに片っ端から告白していく。ナレーター登場。

 

ナレ 皆さん、恋、してますか?している人も、していない人も、どんどん人を好きになりましょう。そして、どんどん声をかけましょう。自信がない?大丈夫。失敗は成功の母とも言います。人を好きになる事ほど、素敵な事はありません。口で言うのは簡単。あとは、勇気を持つだけです。人は良い事ほどすぐに忘れて、悪い事ほど覚えているものです。それなら、こんなお話忘れてください。あーだこーだ言っている暇があるなら、隣の人に声をかけましょう。いいから声をかけましょう。四の五の言わずに声をかけましょう。皆さんに、幸せあれ。

 

                                              終